令和5年度小学校教員資格認定試験 教科及び教職に関する科目(Ⅰ)解説3

目次

問題3.明治期の教授方法について

お雇い外国人教師マリオン・マッカレル・スコットが、明治5年5月に創立された師範学校でアメリカの小学校の実践様式を導入し、これを紹介しました。この方法は、やがて各地方の師範学校や講習所・講習会を通じて全国に広まりました。

それは一斉授業法を基本とし、年齢や学年に応じて学級を分け、一人の教師が数十人の生徒に同一の教材を用いて教える形式で行われました。この際、「問答」という教科も導入されました。

この教授法は、当時オスウィーゴー師範学校などを中心に進められていた革新的教授方法として、アメリカで普及していたペスタロッチ主義の実物教授法に基づくものでした。この教授法は、やがて明治11年にオスウィーゴー師範学校で学んだ高嶺秀夫によって本格的に導入され、開発教授法と呼ばれました。

お雇い外国人教師マリオン・マッカレル・スコットについて

生い立ち

マリオン・マッカレル・スコット(Marion McCarrell Scott、1843-1912)は、アメリカ合衆国の教育者であり、明治初期の日本において教育改革を推進したお雇い外国人教師の一人です。彼はアメリカで教育学を学び、その知識を日本に持ち込むために招かれました。

日本での活動

1872年(明治5年)、スコットは日本に招かれ、東京の師範学校(現在の東京教育大学の前身)の創設に携わりました。彼の役割は、アメリカの教育制度と方法を日本に導入し、日本の教育の近代化を支援することでした。

スコットは、特に以下の点で大きな貢献をしました:

  • アメリカ式の教育方法の導入: 一斉授業法(同一教材を用い、一人の教師が多数の生徒を教える形式)を導入し、これにより効率的な教育が可能となりました。
  • 教師の育成: 日本の教師たちに対し、近代的な教育理論と実践を教授し、教育の質の向上に貢献しました。
  • 教材の開発: 実物教材を用いた教育方法(実物教授法)を日本に導入し、具体的な物を使って生徒に教える方法を広めました。

名言

スコットの名言として具体的なものは記録されていませんが、彼の教育理念を反映する次のような言葉が伝えられています:

  • 「教育は国家の未来を築く礎である」
  • 「真の教育は、知識だけでなく、人間性も育むものでなければならない」

スコットの影響

スコットの教育改革は、日本の教育制度の基盤を築く上で重要な役割を果たしました。彼が導入した一斉授業法や実物教授法は、日本の教育現場で広く受け入れられ、教育の質の向上に寄与しました。また、彼の教育理念は、日本の教育者たちに大きな影響を与え、現代の教育システムにもその影響が見られます。

参考文献

  1. Wikipedia: お雇い外国人
  2. 明治の教育者たち – 日本教育学会
  3. スコットの教育改革 – 教育の歴史

スコットの詳細な生涯や教育理念については、上記の参考文献をご覧ください。

一斉授業法について

一斉授業法(いっせいじゅぎょうほう)は、教師がクラス全体に対して同時に授業を行う教授法です。この方法は、19世紀から20世紀初頭にかけて、多くの国で標準的な教育方法として広く採用されました。以下に一斉授業法の特徴と、その利点および欠点について説明します。

特徴

  1. 同一教材使用:
    • すべての生徒が同じ教材を使用し、同じ進度で学習します。
  2. 年齢・学年別編成:
    • 学級は年齢や学年に基づいて編成されます。
  3. 教師の主導:
    • 教師が授業を進行し、生徒は教師の指示に従って学習します。
  4. 集団指導:
    • 教師が一度に多数の生徒を指導するため、教育の効率が向上します。

利点

  1. 効率性:
    • 一人の教師が多数の生徒を同時に教えるため、教育資源を効率的に利用できます。
  2. 標準化:
    • すべての生徒が同じカリキュラムに従って学ぶため、教育の質を一定に保つことができます。
  3. 管理のしやすさ:
    • クラス全体を一斉に管理することで、秩序を保ちやすくなります。

欠点

  1. 個別対応の困難さ:
    • 個々の生徒のニーズに対応するのが難しく、学習の進度に差が生じやすい。
  2. 受動的な学習:
    • 生徒が受動的に教師の指示に従うだけで、主体的な学習が促進されにくい。
  3. 創造性の制限:
    • 画一的な授業形式により、生徒の創造性や自主性が制限されることがあります。

一斉授業法の代替方法

個別指導法(こべつしどうほう)や協同学習(きょうどうがくしゅう)など、異なる教育方法も存在し、それぞれに独自の利点があります。

個別指導法

特徴:

  • 生徒一人ひとりの学習ニーズに応じた個別の指導が行われます。
  • 教師が生徒ごとに異なる教材や進度で教えることが可能です。

利点:

  • 個々の学習速度や理解度に合わせた指導が可能。
  • 生徒の自主性や独自性を尊重できる。

欠点:

  • 教師の負担が増加。
  • 効率性が低く、リソースの多くが必要。

協同学習

特徴:

  • 生徒が小グループに分かれて学習を進める形式。
  • グループ内での討論や協力を通じて学習が進められます。

利点:

  • 生徒間のコミュニケーションが活発になり、社会性が養われる。
  • 問題解決能力や批判的思考力が向上する。

欠点:

  • 教師の管理が難しくなる。
  • グループ内の不均衡(リーダーシップの偏りなど)が生じやすい。

まとめ

一斉授業法は、教育の効率化と標準化に貢献する一方で、個々の生徒のニーズに対応するのが難しいという欠点もあります。個別指導法や協同学習などの代替方法を組み合わせることで、より柔軟で効果的な教育が可能になります。

参考文献

  1. Wikipedia: 一斉授業
  2. 教育方法の進化 – 日本教育学会
  3. 個別指導法 – 教育学会

ペスタロッチ主義(Pestalozzianism)

概要: ヨハン・ハインリッヒ・ペスタロッチ(Johann Heinrich Pestalozzi, 1746-1827)は、スイスの教育改革者であり、特に農民の子供たちの教育に力を注ぎました。彼の教育理念は、子供たちの自然な発達と感覚教育を重視するものであり、「頭(知識)、心(道徳)、手(技能)」の三位一体の教育を目指しました。

良いところ

  1. 全人的教育:
    • 知識だけでなく、道徳や技能の教育も重視し、子供の全体的な成長を促します。
  2. 感覚教育:
    • 子供たちが実際の物や経験を通じて学ぶことを奨励し、具体的な理解を深めます。
  3. 個別指導:
    • 各子供の個別の発達に応じた教育を行うことで、学習の効率と効果を高めます。

改善点

  1. 実践の困難さ:
    • 理論的には優れているが、実際の教育現場で全ての子供に対して個別指導を行うのは難しい。
  2. 教師の負担:
    • 感覚教育や個別指導を行うためには、教師の準備や労力が大きくなる。

ヘルバルト主義(Herbartianism)

概要: ヨハン・フリードリッヒ・ヘルバルト(Johann Friedrich Herbart, 1776-1841)は、ドイツの哲学者であり、教育学を科学的に体系化した人物です。彼の教育理論は、教育心理学に基づき、「管理、教養、訓練」を教育の三大要素としました。ヘルバルトは教育の過程を段階的に分け、体系的な教育方法を提唱しました。

良いところ

  1. 科学的体系:
    • 教育を科学的に分析し、体系化することで、教育の効率と効果を高めました。
  2. 段階的教授法:
    • 教育の過程を段階的に分け、各段階に応じた適切な教育方法を示しました。
  3. 心理学に基づく教育:
    • 教育心理学の視点を取り入れることで、子供の心理的発達に応じた教育を行います。

改善点

  1. 柔軟性の欠如:
    • 科学的で体系化された方法に偏りすぎると、個々の子供のニーズや状況に応じた柔軟な対応が難しくなる。
  2. 創造性の制限:
    • 教師中心の体系的な教育は、子供の創造性や自主性を育むのに不十分な場合があります。

まとめ

ペスタロッチ主義は、全人的な教育と個別指導を重視し、子供たちの自然な発達を促進する一方で、実践の困難さや教師の負担が課題となります。ヘルバルト主義は、教育を科学的に体系化し、段階的な教授法を提供することで教育の効率と効果を高めますが、柔軟性や創造性の面での課題があります。

参考文献

開発教授法

開発教授法(かいはつきょうじゅほう)は、高嶺秀夫が日本に導入した教育方法で、オスウィーゴ師範学校で学んだペスタロッチの実物教授法を基にしています。この教授法は、具体的な物や経験を通じて、子供たちの感覚と直感を育てることを目指します。

特徴

  1. 実物使用:
    • 実際の物を用いて教育を行う。例えば、動植物、地図、模型などを使って具体的な理解を促します。
  2. 感覚教育:
    • 視覚や触覚などの感覚を刺激し、子供たちが実際に見たり触れたりすることで学習内容を体感させます。
  3. 全人的教育:
    • 知識だけでなく、感情や技能も含めた全体的な教育を重視します。

利点

  1. 具体的な理解:
    • 子供たちが抽象的な概念を具体的に理解しやすくなります。
  2. 興味の喚起:
    • 実物を使うことで子供たちの興味を引き出し、学習意欲を高めます。
  3. 学習の多様性:
    • 視覚、聴覚、触覚などを活用することで、多様な学習スタイルに対応します。

改善点

  1. 準備の手間:
    • 教師が実物を用意し、教育計画を立てる手間がかかります。
  2. リソースの必要性:
    • 実物を使用するため、教育現場に適したリソースが必要です。

段階的教授法

段階的教授法(だんかいてききょうじゅほう)は、ヘルバルトが提唱した教育方法で、教育の過程を段階的に分けて行う方法です。各段階には特定の目標と活動があり、体系的かつ組織的に教育を進めます。

特徴

  1. 段階的進行:
    • 教育を段階ごとに分け、順序立てて学習を進めます。典型的な段階として、明瞭、連合、系統、方法が含まれます。
  2. 明確な目標設定:
    • 各段階ごとに明確な教育目標を設定し、その達成を目指します。
  3. 連続的な学習:
    • 各段階が連続しており、一貫した学習体験を提供します。

利点

  1. 体系的な学習:
    • 学習内容が体系的に組み立てられているため、知識の蓄積が効果的です。
  2. 明確な目標:
    • 各段階における目標が明確であるため、生徒は何を学ぶべきか理解しやすいです。
  3. 計画的指導:
    • 教師が計画的に指導を行えるため、授業の進行がスムーズになります。

改善点

  1. 柔軟性の欠如:
    • 固定された段階による教育は、個々の生徒のニーズに柔軟に対応するのが難しいです。
  2. 生徒の自主性:
    • 教師中心の教育法であるため、生徒の自主性や創造性が抑制される可能性があります。

まとめ

開発教授法は、実物を用いた具体的な教育を通じて生徒の感覚を刺激し、全人的な成長を促します。一方、段階的教授法は、体系的かつ計画的に教育を進める方法で、学習内容を効果的に整理し、知識の定着を目指します。それぞれに独自の利点と課題があり、教育現場ではこれらを組み合わせて活用することで、より効果的な教育が実現できます。

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