令和5年度小学校教員資格認定試験 教科及び教職に関する科目(Ⅰ)解説18

目次

防衛機制に関する説明

防衛機制とは

防衛機制は、精神分析学において、個人が不安やストレスから自我を守るために無意識に行う心理的な操作を指します。これらの機制は、心の安定を保つために重要ですが、過度に使用されると心理的な問題を引き起こすことがあります。

各選択肢の検討

: 「投影」とは,社会的に認められ,好ましい評価を受ける行為を通して衝動を発散することである。

  • 誤り: 「投影」とは、自分の受け入れ難い感情や思考を他人に押し付けることを指します。例えば、自分が持っている否定的な感情を他人が持っていると感じることです。

: 「抑圧」とは,ポジティブな感情を解放することである。

  • 誤り: 「抑圧」とは、嫌悪感や不安を引き起こす思考や記憶を無意識に押し込めることを指します。これにより、意識に上ることを防ぎます。

: 「退行」とは,自分の欲求や感情と全く反対の態度や行動をとることである。

  • 誤り: 「退行」とは、ストレスや不安に対処するために、より幼い発達段階の行動様式に戻ることを指します。例えば、大人が強いストレスを受けたときに子供のような行動を取ることです。

: 「合理化」とは,自分の力のなさなどを認めるのを避けるため,言い訳をして自我を守ることである。

  • 正しい: 「合理化」とは、望ましくない現実を正当化するためにもっともらしい理由をつけ、自分自身や他人に説明することです。例えば、試験に失敗したときに「問題が難しすぎた」と言い訳をすることです。

防衛機制の詳細説明

防衛機制は、心の安定を保つために個人が無意識に行う心理的な操作です。以下に、各防衛機制を順番に説明します。

1. 抑圧(Repression)とは何か?

定義: 抑圧(Repression)とは、不快な記憶や感情を無意識に押し込み、意識に浮かび上がらないようにする心理的なメカニズムです。これにより、個人は心の安定を保ち、日常生活でのストレスや不安を軽減することができます。

具体例:

  • トラウマの抑圧: 子供時代に虐待を受けた人が、その記憶を無意識に抑圧し、思い出せないようにすることがあります。この抑圧により、個人はその出来事に関連するストレスや不安から一時的に解放されます。
  • ストレスフルな出来事の忘却: 試験の失敗や失恋などの不快な出来事を忘れようとする場合も抑圧が働きます。これにより、個人はその出来事に関連するネガティブな感情から解放されます。

メカニズム: 抑圧は無意識のうちに行われるため、個人は自分がその感情や記憶を抑圧していることに気づかないことが多いです。これにより、抑圧された内容は意識的な思考や行動に影響を与えることなく、心理的なバランスを保つのに役立ちます。

影響: 長期的には、抑圧された感情や記憶が心理的な問題を引き起こす可能性があります。これらの抑圧された内容が無意識の中で活発に作用し続けることで、不安やストレスが増加し、心理的な症状(例えば、不安障害や抑うつなど)を引き起こすことがあります。


2. 否認(Denial)とは何か?

定義: 否認(Denial)は、現実を認めずに無視することを指します。これは、外部の現実を受け入れられない場合に用いられる防衛機制です。否認を通じて、個人は不快な現実や感情から一時的に逃れることができます。

具体例:

  • 死の否認: 愛する人の死を認めずに、その人がまだ生きていると信じ続けることがあります。例えば、家族が亡くなった事実を否認し、いつか帰ってくると信じる。
  • 病気の否認: 深刻な病気の診断を受けた人が、自分は健康だと思い込み、治療を拒否することがあります。例えば、癌の診断を受けた患者が、その事実を受け入れずに治療を拒む。

メカニズム: 否認は、現実の状況や感情を無視することで、心の安定を保つために働きます。この防衛機制により、個人は不快な事実から一時的に逃れることができますが、長期的には問題が解決されないまま残る可能性があります。

影響: 否認は短期的には心理的な安定を保つのに役立ちますが、長期的には現実に直面せず、問題が悪化することがあります。例えば、病気の否認により、必要な治療が遅れることで健康がさらに悪化する可能性があります。


3. 投影(Projection)とは何か?

定義: 投影(Projection)は、自分の受け入れ難い感情や思考を他人に押し付けることです。これにより、個人は自分のネガティブな側面を認めることなく、他人の問題として処理します。

具体例:

  • 敵意の投影: 自分が同僚に対して敵意を感じている場合、その敵意を同僚が自分に対して持っていると信じることがあります。
  • 嫉妬の投影: 自分が他人に対して嫉妬している場合、その嫉妬を他人が自分に対して抱いていると感じる。

メカニズム: 投影は、自分の受け入れ難い感情や特質を他人に帰属させることで、自分自身の心理的な負担を軽減します。これにより、自分のネガティブな側面を認めずに済むため、心理的な安定を保つことができます。

影響: 投影は、対人関係において誤解や対立を引き起こす可能性があります。自分の感情や思考を他人に押し付けることで、人間関係が悪化し、信頼関係が損なわれることがあります。


4. 合理化(Rationalization)とは何か?

定義: 合理化(Rationalization)は、自分の行動や感情にもっともらしい理由をつけて正当化することです。これにより、不快な感情や行動を正当化し、自己を保護します。

具体例:

  • 試験の失敗の正当化: 試験に失敗した理由を「問題が難しすぎた」と説明する。例えば、勉強不足を認めずに、試験が不公平だったと主張する。
  • 仕事の失敗の正当化: 仕事での失敗を「プロジェクトが無理難題だったから」と言い訳する。例えば、自分のミスを認めずに、上司や同僚のせいにする。

メカニズム: 合理化は、不快な現実や失敗を正当化することで、自己の心理的な安定を保つために働きます。これにより、自分の責任を認めずに済むため、自己評価が低下しないように保護します。

影響: 合理化は短期的には心理的な安定を保つのに役立ちますが、長期的には自己改善を妨げる可能性があります。問題や失敗の原因を他人や環境のせいにすることで、自分自身の成長や改善が遅れることがあります。


5. 置き換え(Displacement)とは何か?

定義: 置き換え(Displacement)とは、本来の対象から別の対象に感情を移すことを指します。これは、感情の対象が本来のものから他のものに変わることで、その感情が安全かつ許容可能な形で発散されるようにします。

具体例:

  • 怒りの置き換え: 上司に怒られた後、その怒りを家族にぶつける。例えば、仕事でのフラストレーションを家でペットに当たることで発散することがあります。これは、上司に直接怒りを向けることができないため、その感情を家族やペットに移し替える行為です。

メカニズム: 置き換えは、感情をより受け入れやすい対象に移すことで、心理的な負担を軽減します。この防衛機制により、個人は直接対処できない感情や欲求を他の対象に向けることで、心理的な安定を保つことができます。

影響: 置き換えは、感情を安全に発散する手段として役立ちますが、誤った対象に感情を向けることで対人関係に問題を引き起こす可能性があります。例えば、家庭内の緊張が高まることがあります。

6. 退行(Regression)とは何か?

定義: 退行(Regression)とは、ストレスや不安に対処するために、より幼い発達段階の行動様式に戻ることを指します。これは、個人が過去のより安全で快適だった時期の行動パターンに戻ることで、現実のストレスに対処しようとするものです。

具体例:

  • 幼児的行動の出現: 大人が強いストレスを受けたときに子供のような行動を取る。例えば、重要なプレゼン前に爪を噛む、ぬいぐるみを抱きしめる、泣き出すなどの行動が現れます。

メカニズム: 退行は、過去の発達段階に戻ることで、現実のストレスや不安から逃れ、安心感を得ようとします。これにより、心理的な負担を軽減し、一時的な心の安定を保つことができます。

影響: 退行は、一時的にはストレスを軽減するのに役立ちますが、長期的には現実的な問題解決を妨げる可能性があります。大人としての適応行動が求められる状況で、幼児的行動が不適切とされることが多いため、社会的な適応が難しくなることがあります。


7. 昇華(Sublimation)とは何か?

定義: 昇華(Sublimation)とは、社会的に受け入れられない衝動や欲求を、社会的に受け入れられる行動や創造的な活動に変換することを指します。これにより、個人は不適切な衝動を建設的な方法で発散することができます。

具体例:

  • 攻撃性の昇華: 攻撃的な衝動をスポーツで発散する。例えば、怒りをコントロールするために格闘技を習うことがあります。これにより、攻撃的なエネルギーを健康的かつ社会的に受け入れられる形で利用します。

メカニズム: 昇華は、受け入れられない衝動を社会的に価値のある行動に変換することで、個人の欲求を満たしつつ、社会的な適応を図ることができます。これにより、心理的な満足感と社会的承認を同時に得ることができます。

影響: 昇華は、最も健康的な防衛機制とされており、個人の成長や社会的適応に寄与します。攻撃性や性的衝動など、抑圧されたエネルギーを創造的かつ建設的に利用することで、心理的なバランスを保ち、社会的に有益な活動に貢献することができます。

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